文学全集読破の錯覚におちいる

 新聞の読書欄を読み比べると、圧倒的に毎日新聞のそれが面白い。人によって違うだろうが、私は断然「毎日」が好きだ。なぜか。これは、丸谷才一さんを中心とする評者の差だと確信している。老若取り混ぜて各分野の手だれを集めてると思うのは私だけではないはず。

 そのボスである丸谷さんが同紙書評常連の鹿島茂、三浦雅士の両氏と一緒になって、仮に「文学全集」を今自分たちで作るとしたらどういう本を選ぶかという、まことに楽しい企画が一冊になった(「文学全集を立ちあげる」)。正直、殆どどれも読んだことがないことを白状せねばならないのは辛い。読んだことのない人間が博覧強記の人たちの薀蓄を聞かせられて何が楽しいのかと思われるかも知れない。それでもなおかつこの本はむやみに面白い。一言で言えば、従来の文学全集が「求道的」と言う点を中核にすえているとすれば、ここでは「快楽的」が焦点といえようか。「フロベールが、ツルゲーネフにトルストイを読むように勧められて、どこが面白いのか全然分からないと手紙に書いてますね」(鹿島)と言った風に既存の価値観をがたがたにしてくれて小気味いいほど。空海をめぐっては、「要するに和辻哲郎をもっと頭をよくして、ディズニーランドに対する親近感をもっと強くすれば空海みたいになる」(三浦)などとわけの分からないようなことを滔滔と述べているのもおかしい。世界と日本の文学のすべてをさらってくれて実にためになる。読んでもいないのに読んだ気にさせてくれるし、自分が惹かれるところから宝の山に入ってみるのもいいかも。でも、「ポルノの巻も作りましょうね」(鹿島)といった具合だから、変にのめり込まないように、ご注意を。

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