昨年11月、ロンドンで元KGBリトヴィネンコ氏が、ポロニウム210(放射性物質)をなにものかに飲まされて毒殺されるという事件が起こった。寺谷ひろみ『暗殺国家ロシア』は、この事件の犯人を追及する一方、歴史的、社会的、政治的、経済的背景などを探っている力作である。捜査が進行中の事件について、主にインターネット情報から事実だけを拾い上げて構成したというものの、迫力溢れるノンフィクション読み物に出来上がっている。
実は寺谷ひろみさんとは、寺谷弘壬青山学院大学名誉教授のこと。姫路出身で県人会などでご一緒することもあるし、かつて公明新聞にソ連関係の連載をお願いしたこともある。ひらかなで名前を書かれると別人のようで面白い。学習研究社が新しく新書を出す(学研新書)にあたって、著者の旧来のイメージを一新するためにも、是非と要請したに違いない。「この本は読みごたえがあるぞ」と勧めてくれた人でさえ「女性でここまで書くか」などと言われたのには笑ってしまった。
91年に崩壊したソ連は、共産主義、社会主義の看板を外し、資本主義(民営化)から一挙にマフィア社会に突入してしまったと、著者は指摘する。銀行を中心に石油産業から新聞・ラジオ・テレビなどマスメディアまでを操る新興企業家を指すオリガルヒという言葉。これと、力のある者との意味のシロヴィキと合わさって出来たシロヴァルヒなる言葉は、権力を持つ実業家との意味になり、今のロシアでの台頭ぶりが注目を集めているという。ロシアにおける、人々に影響を与える方法は三つ―「脅しとウオツカと殺しの恐怖」という有り様がリアルに繰り返し語られ、いささか食傷気味になる。
日本は今や自殺国家とさえ言われるが、かつて暗殺国家とされた時期がある。もっとも、とてもロシアの比ではなかったが。
著者は、最後に「プーチンの意向を受けたFSB(KGBの後身)がルガヴォイに命じ、コヴツンの協力で毒をロンドンに運び込み、この二人か、”第三の男”ソコレンコがリトヴィネンコに飲ませたのであろう」と犯人を割り出しているが、ロシアからの反論は果たしてあるのか。
Posted on 07.06.28 by AKAMATSU Masao
Filed under: 赤松正雄の読書録ブログ

Leave a Reply