外交官から作家に転向した春江一也の中欧シリーズ三部作(『プラハの春』『ベルリンの秋』『ウィーンの冬』)は未だ読んでいない。理由は特にないが、強いてあげれば中欧への距離感かもしれない。この夏初めて彼の最新作『上海クライシス』を読んだ。こっちはお隣、しかも国際テロの標的に上海が、とくれば食欲はそそられる。
全編いたるところに現代共産中国への批判的眼差しが溢れる。「偽物づくりの名人としての中国人でも、この神戸牛だけはつくれない」「うっかり奴らの悪口でも書こうものなら特務がやってきて、しょっぴかれる。恐ろしい国だよ、ここは」「中国共産党自体がマフィア化した」などと言った具合。「国を売ることを拒否し、魔都上海で自栽して果てた、遠い日の我が同僚の御霊に捧げる」との献辞にもあるように、実際に一昨年に発覚しいわゆる「在上海日本総領事館員自殺事件」にヒントを得たフィクション。しかし、きわめてリアルで、あたかもノンフィクションと見まがうばかり。
着想は面白いが、いささか物語の展開に事件性が乏しいのはどうか。最後のおとしどころも少々不満が残る。あまりの反中的展開に、大分前に途中で投げ出していた中国の若手ジャーナリストなど5人による『ノーと言える中国』を口直しに引っ張り出す。「中国が日本との国交正常化を実現させたことについては、その度量の広さたるや日本のあまたの政治家などくらぶべきもない」「国家として見るには、日本には構造上の致命的な欠陥がまだまだあるようだ」―こちらはこちらでまた強烈な反日的言辞(正確には愛国的表現というべきなのだろうが・・・)のてんこ盛り。なかなか中庸の書というものにはお目にかかれないようではある。
Posted on 07.08.27 by AKAMATSU Masao
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