偽米ドル事件の読み取り方

 「(佐藤優氏の議論は)説得力がありそうにも見える。しかし、まずは結論を言うと、その説得力にも陰りがあると言わざるを得ない」―表現は控えめながら今をときめく”言論界の雄”に、一太刀浴びせている本に遂に出くわした(前回に待望したばかり)。原田武夫『北朝鮮vs.アメリカ 「偽米ドル事件」と大国のパワー・ゲーム』である。

 原田氏はまだ30代後半だが、早々と官僚人生に見切りをつけて独立し、昨年末に事務所を開設。『北朝鮮外交の真実』をはじめ仕事上知りえた北朝鮮情報を中核に、旺盛に執筆活動を展開中だ。外務省出身の言論人は岡崎久彦、岡本行夫氏ら数多いが、最も若い部類に入る。この書では、NHK出身で今や小説家に変身した手嶋龍一氏の『ウルトラダラー』を俎上にあげ、「偽米ドル」事件を巧みに料理している。インテリジェンス流行りのパートナーとも言える佐藤優氏の評価共々合わせ技で斬っており、興味深い。

 「基本となるのはあくまで金融資本の展開、そしてマーケットの利益獲得競争である。米国が追い求めているのが、そこでの覇権の維持と拡張であり、それ以上でも、以下でもない」―これが原田氏の主張のエッセンス。小説という形態だけに、”逃げ”も盛り込みながら、北朝鮮主犯説を決め付ける佐藤・手嶋コンビに疑問符を突きつける。佐藤優氏の登場とともに俄かに浮上してきた感の強い、出版界、言論人のインテリジェンス礼賛傾向。それはそれで大事ではあるが、誰でも得られる情報からしっかり読み取ることができればそれにこしたことはないというのが素人感覚ではある。そこいらを掬い取るかのごとき論理展開は小気味良い。

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