大震災の朝に、震度0の地方県警で始まった悲劇

 いやはやあきれた。ここまで書くかとの感じがする。横山秀夫『震度0』は、警察内部の権力闘争というに相応しい赤裸々な心理の読み比べが満載されており、ぐいぐい惹き付けられる。彼のこれまでの数多い警察もの短編に盛り込まれた手練手管を集大成したもののようにも思われる。ただし、警察幹部の夫人たちの登場にはこれまであまり気付かなかった。おどろおどろしい印象もいなめず後味はあまりよくない。

 あの阪神淡路大震災の朝に、約600キロほど離れた地方の県警幹部が失踪した。蒸発か事件かとの不安が渦巻く中、県警幹部6人入り乱れての思惑と利害、保身と野心の錯綜した姿がリアルに描かれる。震度6という未曾有の大惨事の有様がしだいに明らかになっていく過程が、不気味な基底音をなす。一方、震度0の地では”人間関係の大惨事”が展開される。このタイトルはなかなか味わい深い。

 最終段階になって、失踪した幹部夫人の発言ですべてを明らかにする展開は、懸命に想像力を働かせてきた者にとって、いささか拍子抜けする。推理のタネあかしにおけるこの手法はあまり好ましくない。ところで、テレビ画面に失踪中の夫の姿を見たとの供述があった。これは結局嘘だったのだが、それを信じたいと思う読者は少なくないのでは・・・。あまりに酷い話の展開に救いを求めようとの感無きにしも非ずだからだ。「男の人たちの本性というか本音のようなものがよく見えてきて、自分だけがよければいい、自分の仕事だけうまくいっていれば後のことは知らない。結局は保身と野心だけ」―夫を一人も心配してくれない役所の仲間をなじる妻の言葉は痛烈に響く。この小説を読み、「人のふりみて我がふり直せ」とのことわざがしきりに思い出される。

Leave a Reply