幼児性から脱却するための"読書のたくみ"

 白洲正子さんに私が嵌ってしまっていることは既に書いた。現時点で新潮文庫になって発売されている9冊をこの40日間ですべて読んだ。20年ほど前に購入しながら本箱の隅に眠っていたままだった『日本のたくみ』が最後になった。なぜかくほどまでに魅力的な本を読まずにきたのかが改めて悔やまれる。扇、染織、陶器から刺青、現代彫刻などなど―日本伝統の匠(たくみ)たちの姿はまことに美しく輝いて見える。当初は古めかしい職人技を読ませられるのはどうも、と勝手に思い込んでいたが、実に得るところ多い読書体験となった。

 和紙を作る際に使う「カゴミダシ」は、チリトリ用の籠だ。これも作る人が次第にいなくなる。白洲さんは「やがてプラスティックに変わってしまうのかと思うと淋しくてならない」として、このことが紙を扱う人々の心に及ぼす影響を憂える。「どれ程多くの日本の工芸が、道具によって支えられているか、道具を作る下積みの職人衆を私たちはもっと大切にしなければならない」と、この本の中での彼女にしては珍しく説教をたれている。この手のいいぶりは、実は他には全くといってなく、大筋は極めて特徴あるたくみを探し求めての旅ゆく魅力溢れるルポルタージュである。18人のものがたりが登場するが、私としては「贋物づくり」「刺青は生きている」「月心寺の精進料理」の3作が滅法面白かった。

 思えば、白洲正子にいざなってくれたのは福田和也さんだが、彼の『成熟への名作案内』は読書案内としてはなかなかに異色である。「読書」「政治」にはじまり「子供」「自殺」へと続く17章34冊の本の紹介はいずれも激しく読書欲をかきたててくれる。副題に「大人になるための」との形容詞がついており、デビューいらい一貫して「日本人の幼児性」を衝く彼のコンセプトは不変だ。まさに”読書のたくみ”としての面目躍如といえようか。

Leave a Reply