少年時代の原点・漂流記の謎解きに胸躍らせる

 先日、私が小学校から高校卒業した頃までを過ごした神戸の塩屋を歩いた。駅前の姿には劇的な変化はなく、往時を忍ばせた。懐かしい畳屋さんが未だあったのには嬉しかった。実は、当時はその畳屋さんが貸本屋もあわせ営んでいた。そこで、私の少年時代の読書生活は始まったのである。ご多分に漏れず、「シャーロックホームズの冒険」や、「怪盗ルパン」などといった探偵ものと共に私がのめりこんだのは、「海底二万マイル」や「十五少年漂流記」といった海にまつわる探検ものであった。

 この件については以前に触れたことがあるが、あれから既に50年が経つ。その歳月をいっきに埋めるかのごとき本に出くわした。椎名誠『「十五少年漂流記」への旅』である。ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』は、小説だからその話の舞台になった本当の場所はないのだが、モデルになった島はあるとされてきた。記憶が”冷凍庫”に入ったままほぼ半世紀が経った昨年、なにげなくテレビを見ていると、椎名誠氏の姿が目に入った。この小説のモデルとされてきたチェアマン島を求めて、マゼラン海峡からニュージーランドに飛び、物語の謎を追うというものだった。あまりの懐かしさに我を忘れ、しばし見入ってしまった。ただ、雑事の中でもあり、十分にその番組の狙いを捉えきれず、残念な思いがしていた。そこへ、このたびの出版である。季刊雑誌に連載されていたものに加筆修正したということだが、あり難かった。

 「ヴェルヌのこの小説は、僕の原点です」という椎名さんは熱い思いを込めて、少年時代における読書遍歴を語っている。一つ年下の私としては歴史の共有ということもあり、”記憶の解凍”作業を共同でするという側面もあって涙する思いさえ。今まで殆どこの人の作品に親しむことのなかった私だが、この本を読んで大いに刺激を受け、啓発された。ただ、この本を書くきっかけとなったのが兵庫県園田学園女子大の田辺眞人教授の論説であることについて、もっと宣揚されてしかるべきではないか。田辺教授の謎解きの功労があってはじめて意味を持つ椎名さんの旅であるにもかかわらず少々位置づけが低いと思われる。

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