毒々しい太刀捌きを飄々と受け流す達人を見る思い

 野中広務元官房長官―この政界の大先輩を私は今から8年前に姫路で開いた出版パーティのメインゲストに招いた。2001年4月13日。この日は、実は自民党の総裁選挙の告示日。「橋本龍太郎対小泉純一郎」の対決が幕開けをした日だったが、野中さんは私の本のことなどそっちのけで、小泉なる人物はいかにいい加減かと、こき下ろされたことだけが印象に残った。後に小泉政治に愛想をつかした風を漂わせての引き際は実に見事だった。

 その野中さんが、名うての在日女性論客・辛淑玉さんとの対談『差別と日本人』を出版され、遅まきながら読み終えた。このテーマ、多くの人が気にしながらも見てみぬ振りといえようか。「部落」と「在日」―この重い課題を一気に真正面から当事者の語りによって考えさせられた。決して明るい気分になるわけではないが、不思議にすがすがしい。

 このなかで、故新井将敬氏(平成10年に自殺した自民党代議士。享年50歳)が登場。懐かしい思い出が蘇ってきた。実は彼の議員会館の部屋で二人だけで話しこんだことが一度だけある。政治改革の嵐が吹き荒れていた頃だ。詳しい日時は忘れたが、彼は、私に離党を勧め、一緒の党でやろう、と呼びかけてきたのだ。ひとを見損なうなと一笑に付したのは言うまでもないが、知的でガッツがあり、カラッとした風貌が好ましく思えたのを思い起こす。それだけに亡くなったと聞いた時はショックだった。この新井氏のことを「政治家になっても、在日の問題は何一つやってこなかった」と手厳しく書いている辛さんは、自分が彼を死においやったとの風説を悪びれることもなく明かす一方、「精神的に殺した」のは石原慎太郎現都知事だと強烈なパンチを繰り出している。

 二人の対話はうまく噛み合ったり、外れたりと起伏に富んだ展開は読み応え十二分。とくに対話の合間にゴチックで挿入された、辛さんの手になる刺激的で的確な背景解説と、波乱万丈の野中さんの人情話は、怒りと涙なしに頁を繰れない。毒々しいまでの辛さんの太刀捌きを飄々と受け流す野中さんの捌き方にはただただ恐れ入るしかない。

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