民主党が参院選で大敗北を喫して約三週間。今一番読みたいと思うのは、雑誌『文藝春秋』の塩野七生さんの巻頭随筆「日本人へ」である。投票日の前々日に発売された八月号で「民主党の圧勝を望む」を書いておられた。理由はひたすら「政権の安定のために」であった。一年半ほど前の同じ欄に「拝啓・小沢一郎様」との題で「自民党と民主党との今すぐの大連立」を呼びかけ、それをやれるのは「小沢様、あなた御一人です」とまで「小沢待望論」を掲げた塩野さん。ことほどさように入れ込んだ小沢・民主党の敗北をどう総括されるのか。読んで見たいと思うのは私だけではあるまい。
選挙後に、溜め込んでいた本を紐解いているが、その中に塩野さんの『日本人へ リーダー篇』と『日本人へ 国家と歴史篇』の2冊がある。冒頭に取り上げたものの集大成である。国家の安全保障に関心を持ってきたものとして、鮮やかな論旨展開に、大いに感心してきた。基底部をなしているのは、強い国家と卓越した指導者への期待であり、「ローマ」に比べあまりにひ弱な現代日本のリーダーたちへのため息である。それは痛いほど分かるものの、明らかに上手の手から水が漏れたといわざるを得ないのが、上記の二つだろう。
同じく選挙の投票日前日の毎日新聞のコラム『近聞遠見』で岩見隆夫氏が「塩野七生に反論する」との鋭い論評を書いた。「安定するに越したことはない。だが、議席数が安定しただけで、いい政治が実現すると思うほど、有権者の目は単純でなくなっている」と。彼は雑誌『ウイル』の9月号でも「塩野さんの指導者論は古典的にすぎる」し、「その論旨は現在の日本の状況と相当にずれている」と叩いたうえで、彼女の「再反論」を促している。興趣は高まるばかりだ。
Posted on 10.07.31 by AKAMATSU Masao
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